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聖地、熊野古道を行き交う

 時うつり ことさり たのしびかなしび ゆきかふとも/古今(仮名序)
 2004年7月に世界遺産登録された熊野古道は、かつて伊勢から熊野詣や西国巡礼へ向う信仰の道であった。古道にはいにしえ人が魂の再生を夢見て重畳たる山々、森、川と磯の続く壮大な山海を往来した。今は一部難所ゆえに近代の波から逃れて、往時の美しい石畳や豊富な自然光景を偲ぶことができる。
 11月28日、宮川流域案内人に導かれて初めて熊野古道を歩いた。コースは三重県指定文化財である大紀町大内山の一里塚からスタートし、宮川支流の大内山川に沿って熊野古道芦谷道(平地)を辿り、旧熊野街道をへて大内山B&G海洋センタ−までの約5キロの行程だった。途中に新生“大内山動物園”へも立ち寄り、大内山川流域の自然や歴史と触れ合った。

熊野古道 芦谷道
熊野古道 芦谷道

大内山動物園
大内山動物園

 杉樹の際たつ隙間に日射しを浴びながら若いシダが青々と茂り、枯葉に覆われて野イチゴは赤々と光る。可憐な実を摘んで口に含むと甘酸っぱい。幸せを求める古い旅人は豊な山川に恵まれて苦行ができることにふっと思いを馳せた。

熊野古道の景色
大内山川

野イチゴ
野イチゴ

 昼すぎ帰路には立たず、九十九折れのことで有名なツヅラト峠へと向った。ツヅラト峠はかつて伊勢と紀伊の国境であった峠で、伊勢から熊野を目指す旅人がこの峠越えで初めて、雄大な熊野の海を目にする聖地への玄関口である。

ツヅラト峠登り口
ツヅラト峠登り口

ツヅラト峠の景色
沿道の美しい紅葉と清流のせせらぎ

 ツツラト峠の登山口には清流が流れ、せせらぎ音はうっそうとした雑林道の遠くまでに響かせる。山道を約30分歩くと、標高357mのツヅラト峠に到着。薄暗い古道に慣れて、キラキラと輝く海を初めて目にすると実に眩しい。

ツヅラト峠から眺める熊野灘
ツヅラト峠から眺める熊野灘

ツヅラト峠

 ゆったりした風土の伊勢と神仏の国熊野とでは、峠を境にして自然までも一変するという。此処ツヅラト峠を熊野へと足を踏み入れば石畳が見える……