昨年五月、新潟県佐渡の車田植を取材に行く旅に「中子の桜」を知り、今年はぜひ一目見ようと思った。
豪雪地に咲く残雪の桜、湖面に映る桜、背景には杉林、そして気象状況による幻想的な朝霧などはカメラマンにとって最高の条件だ。
4月29日は休日。前日の仕事を終え、車で五百キロ近い距離の新潟県津南町へ徹夜で走った。
早朝四時頃に津南町中子へ着く時、すでに多くのカメラマンが暗い中で三脚を構えている。急いで場所確保に出かけ、夜明けを待つことにした。
冷え込む朝、湖面には波が立ち、幻想的な朝霧も湖面に映る桜も期待できない。程よく残る雪と杉木で十分だった。
三時間後、十日町市松代にある棚田と儀明の桜へ向った。日本の原風景と言われる棚田に山桜が映り、絶景を成す。そしてNHK大河ドラマ「天地人」のオープニングにも登場された星峠の棚田を見て回り、再び津南町へ戻る。
湖面は朝と違って鏡のように残雪の桜を映り込む。自然の美を楽しみながら一瞬一瞬で移り変わる風景をカメラに押さえた。
新潟から鳥羽市へ帰る道程は長い。念願の中子の桜を見るために、一日千キロを突っ走った。雪国であろうが海郷であろうが、自然に深い愛情を持つ土地の先人が残してくれた日本の原風景と出会う旅は、苦楽に満ちる。
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