三重県の深い山あいに、三多気の桜があり、「日本さくら名所100選」にも選ばれている。春になると、伊勢本街道から真福院へ続く1.5kmの参道には桜で飾られ、ピンク色のトンネルが出来上がる。参道沿いの桜が散る頃、高所の棚田に桜が満開を迎える。水が張られた棚田に桜が映ると、きれいな桜の絵になって、全国からの観光客を吸い寄せる。
4月13日(2014)、夜明け前に、私は深い山に囲まれた三多気の桜を見に行った。四月といえども、日の出前の山郷はいくぶん肌寒く感じる。周辺はいたる所に木々がうっそうと茂り、新緑が山を蘇える。山道、家屋は俗世の汚れにいささかも染まっていなく、静かな山あいは鳥の鳴き声だけが響きわたる。
今日は一年一度の三多気の桜まつりが津市美杉町で行われる。地元の人々はヨモギ餅で訪れる客人(まれびと)をもてなす。ヨモギ餅は日本の春を代表する和菓子の一種で、ヨモギ、もち米、小豆などの材料で作られる。ヨモギは漢方では艾葉(ガイヨウ)と呼ばれ、独特の香りがあり、食用だけでなく、生薬としても珍重される。日本でヨモギは魔除草とも呼ばれ、魔除草で作ったヨモギ餅は子孫繁栄、無病息災の意味が込められている。
午前十時、春の陽気に誘われて、桜まつりは人で溢れかえる。山民は木臼を囲んで民謡を歌いながら木の棒で餅を搗く、伝統の「千本つき」が人気を呼ぶ。観光客は屋台に並ぶ伝統食を味わいながら、桜見を楽しんだ。私も山賊なべと焼いた天然シシ肉をいただき、空腹を満たす。
日本人は桜に対して独特な愛情を持っている。いにしえから桜は春の象徴であり、桜が咲くことは農作業の開始を意味する。サクラのサは田の神(穀霊)、クラは倉(神の座)として、春になると山から降りて依代となる桜の木に座る。農耕開始を前に山の神として迎えられ、その年の豊作を願って桜の木に降りてきた神様を、料理と酒でもてなし、人間も一緒に饗宴することが、桜まつりの本来の意味である。(「日本紀行」中国語訳文)
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