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歳の神を海に流す伝統行事「ノット正月」(鳥羽市国崎町)

 志摩半島の最東端に位置する鳥羽市国崎町は歴史ある海女と漁師の港町。伊勢神宮に納める熨斗鰒調製所や海士潜女(あまかづきめ)神社等があり、伝統ある祭りも多く残されている。
 毎年1月17日、正月に各家庭を訪れる歳の神をわら船に乗せて送る伝統行事「ノット正月」が国崎町前の浜で行われる。各家から1人ずつ女性が洗米、なます、酒、「ツメの札」、そして藁一把を持ち寄って共同に藁船一艘を造り、歳徳丸の幟と御幣を立てて火を放って海に流す。

供え物
ツメの札等供え物

ノット正月
海に祈る

 歳の神・歳徳神は民俗学では祖霊であると考えられ、山の高いところや海の彼方からやってきて小正月(1月15日)前後には左義長(どんど焼き)の行事を通して歳の神を見送る。志摩半島は周囲が海に囲まれ、生活の糧が海であり、先祖の霊も海からと信仰深く、わら舟等を海に流す行事が多く見られる。

藁船をつくる
藁船をつくる

ノット正月
藁船に火をつける

 「ノット正月」の「ノット」とは祝詞のなまりの説があるが定かではない。旧暦では小正月(満月)は女の正月とも呼ばれ、主役は女性と子供だった。各家から海女や女性だけに執り行われる国崎町「ノット正月」は江戸時代まで遡り、日本全国でも珍しいとされる。消滅の恐れがあるとして2011年に国選択無形民俗文化財に選ばれた。

藁船を海に流す
藁船を海に流す

ノット正月
歳の神を海の彼方へ

 先祖の霊や来訪神を見送る行事はなんども見てきた。通常は日の沈む頃と思ったが、13時過ぎに着くと年配の海女ら60人ほどがすでに前の浜で集まり、海に供え物をして拝んだり、わら舟を作る途中だった。30分過ぎた頃に2メートのわら舟が出来上がり、鈴の音を合図に火を付けて海に流した。
 鳥羽市国崎町の漁師や海女にとっては海が生活の場であり、死と隣り合わせる場でもある。先祖に対する篤い思いがわら舟を介在して去来し、感謝や安全を祈願して正月を締めくくる。(李相海)